海洋堂という会社の名前を、フィギュア好きなら知らない人はいないだろう。1964年創業、大阪発の造形集団。チョコエッグの動物フィギュアで日本中を驚かせ、フィギュア造形のレベルを世界水準に引き上げた会社だ。

その海洋堂がカプセルトイとして展開しているのが「カプセルQミュージアム」シリーズ。ラインナップを眺めていると、企画会議で何が起きているのか本気で気になってくる。仏像、浮世絵、UMA、クモ、絶滅動物、招き猫、戦車、軍艦、イモムシ——ジャンルに一貫性がない。あるのは「本気で作る」という一点だけだ。

名作①:日本の至宝 仏像立体図録

☸ 最高傑作
日本の至宝 仏像立体図録シリーズ
2015年〜 / 400円 / 全5弾+派生シリーズ / サイズ約50〜60mm

カプセルQミュージアムを語るなら、まずこのシリーズから始めるべきだ。日本各地の名刹に安置される仏像を、400円のカプセルトイとして立体化するという企画。2015年12月の第1弾から、シリーズは今も続いている。

第4弾「奥深き造仏の世界編」の商品説明が、このシリーズの姿勢をよく表している。「仏像シリーズ第四弾は数ある仏像の中でも極めてユーモラスな造形で異彩を放つ『天燈鬼』『龍燈鬼』をフィーチャー。対極の王道といえる表現で、慈悲の笑みをたたえた『月光菩薩』、憤怒の形相凄まじい『執金剛神』をラインアップ」——ユーモラスな造形と王道の対比という、美術史的な視点で構成されている。

🎨 原型制作(第4弾)
天燈鬼:Studio-蓮 / 龍燈鬼:Studio-蓮 / 月光菩薩:田熊勝夫 / 執金剛神:木下隆志

→ カラーバリエーションも凝っている。「朽木調カラー」「金箔雅趣カラー」など、仏像の経年変化や本来の姿を複数の彩色で表現。4体の造形から計12体のバリエーションを展開する構成だ。ミニブック1枚付き。

📜 仏像立体図録 シリーズ年表
2015年12月
仏像立体図録Ⅰ 全7種/400円
シリーズの原点。
2016年6月
立体図録 仏像Ⅱ 全9種/400円
ラインナップ拡大。
2018年2月
仏像立体図録4 奥深き造仏の世界編 全12種/400円
天燈鬼・龍燈鬼・月光菩薩・執金剛神。2022年10月に再販。
2018年11月
仏像立体図録5「邪気を祓う守護神編」 全12種/400円
金剛力士(阿形・吽形)、普賢菩薩、不動明王。原型は Studio蓮・香川雅彦・田熊勝夫。
2020年11月
仏像立体図録3 威容の四天王編 全12種/400円
四天王をテーマにした構成。
派生
仏像立体図録 廻(kai) 全6種/400円
ベスト版的な位置づけの派生シリーズ。
✍️ 海洋堂が異質である理由
ガチャなのに、原型師の名前が公式に明記されている

カプセルトイの世界で、造形を担当した人物の実名が公式サイトに明記されるケースは極めて稀だ。だが海洋堂は、商品ページに堂々と原型制作者の名前を載せている。

🔹 Studio-蓮(天燈鬼/龍燈鬼/金剛力士 阿形・吽形)
🔹 田熊勝夫(月光菩薩/不動明王)
🔹 木下隆志(執金剛神)
🔹 香川雅彦(普賢菩薩)
🔹 松村しのぶ(UMA大全 造形総指揮)

400円のガチャが「工業製品」ではなく「造形作家の作品」であることを、この表記が示している。海洋堂が造形集団と呼ばれるゆえんだ。

名作②:歌川国芳 猫の立体浮世絵美術館

🐈 浮世絵×猫
歌川国芳 猫の立体浮世絵美術館
2019年1月 / 400円 / 全5種 / 2019年3月再販

江戸時代の浮世絵師・歌川国芳は、無類の猫好きとして知られる。擬人化された猫たちが芝居を演じたり、文字を形作ったりする作品群を残した。そのユーモラスな猫たちを、平面の浮世絵から立体へと起こしたのがこのシリーズだ。

浮世絵を立体化する試みは他にもあるが、「国芳の猫」に絞った企画は珍しい。江戸の絵師が描いた猫の表情や姿勢を、そのまま3次元に持ってくる——これは翻訳作業に近い。海洋堂には葛飾北斎の浮世絵立体図録(2017年12月・全5種)や、伊藤若冲の花卉立体図(2017年10月・全5種)もあり、日本美術の立体化というテーマを継続的に追求している。

→ 美術館のミュージアムショップに置いてありそうな企画が、400円のガチャとして街のガチャコーナーにある。それがカプセルQミュージアムの面白さだ。

名作③:〜まるで暗殺者(アサシン)〜 クモコレ!

🕷 毛並みまで
カプセルQミュージアム 〜まるで暗殺者(アサシン)〜 クモコレ!
2020年11月 / 400円 / 全5種

タイトルからして只事ではない。「まるで暗殺者(アサシン)」というサブタイトルをクモにつける発想がまず面白い。そして商品の評価が、「毛並みまで再現」——クモの毛並みである。

クモは苦手な人も多い生き物だが、造形物として見ると圧倒的に面白い。8本の脚、複眼の配置、体表の質感。それを400円のカプセルトイで、毛並みレベルまで再現してくる。生き物系ガチャの中でも、かなり攻めたテーマ選定だ。

→ 海洋堂は「イモコレ!」(イモムシストラップコレクション・4弾まで展開)、「有毒危険動物大全」、「実践!ひっつき虫図鑑」なども展開している。虫系への執着が明らかに強い。

名作④:UMA大全

👣 生物学的考証
カプセルQミュージアム『UMA大全』
2015年9月 / 400円 / 全5種 / 造形総指揮:松村しのぶ

このシリーズの企画意図が素晴らしい。「世界一の造形作家である松村しのぶ氏が、架空の生物=UMAを実際に生きている動物としてデザイン。生物学的に正しい考証と造形センスが融合した、これまでにないUMAの再現スケッチが誕生」——つまり、実在しない生き物を「実在するとしたらこうなる」という生物学の視点で設計している。

ネッシーやビッグフットのような未確認生物を、想像上のモンスターとしてではなく、生物として成立する形で立体化する。そのスケッチを、数多くの海洋堂動物フィギュアを造形してきた山本聖士氏、菅谷中氏、松本栄一郎氏が、松村しのぶ氏とともに立体化したという制作体制も本格的だ。

→ 「架空の生物を生物学的に正しく作る」という矛盾した挑戦。この企画が通って商品化されるのが海洋堂という会社だ。

名作⑤:わけあって絶滅しました。立体図鑑

🦴 書籍コラボ
わけあって絶滅しました。立体図鑑
2022年7月 / 500円 / 全5種

ベストセラー書籍『わけあって絶滅しました。』とのコラボレーション。絶滅してしまった生き物たちを、その「絶滅した理由」とともに紹介する書籍の世界観を立体化した。恐竜発掘記シリーズ(10弾まで展開)と並んで、海洋堂の古生物系ラインを支える一作。

絶滅動物というテーマは、単なるフィギュアではなく「学び」を含んでいる。ガチャを回して出てきた生き物が、なぜこの世からいなくなったのか——その物語がついてくる。海洋堂のガチャがしばしば博物館のミュージアムショップに置かれる理由が、このあたりにある。

→ 「恐竜発掘記10 最強ハンター列伝 -白亜紀北米編-」(2022年8月・全5種・500円)など、古生物系は長期シリーズとして継続している。

名作⑥:日本美術シリーズ(北斎・若冲)

🎨 日本美術
葛飾北斎 浮世絵立体図録 / 若冲の花 伊藤若冲・花卉立体図
北斎:2017年12月・全5種・400円 / 若冲:2017年10月・全5種・400円

浮世絵と日本画を立体に起こすシリーズ。北斎の「神奈川沖浪裏」のような平面作品を、どうやって立体にするのか——という挑戦がここにある。伊藤若冲の花卉画も同様で、絵画の構図とディテールを3次元に翻訳する試みだ。

また、より大きめのサイズで展開する「miniQ」シリーズでは歌川国芳の金魚づくし「酒のざしき」(2020年6月・全4種・590円)なども展開されている。日本美術の立体化は、海洋堂が長年取り組んでいるテーマのひとつだ。

→ 美術の授業で見た絵が、手のひらの立体になって出てくる。これはガチャという形式でしか起きない出会い方だと思う。

✦ カプセルQミュージアムの本質 ✦
「ミュージアム」を
名乗るガチャ。
そして実際に、
博物館級のものが出てくる。
── 400円で買える、日本の造形力

ジャンルの節操のなさが、すごい

🗂 カプセルQミュージアムが扱ってきたテーマ(一部)
仏像浮世絵UMAクモ絶滅動物恐竜カブトムシイモムシ有毒危険動物ひっつき虫十二支動物頭骨招き猫お財布亀戦車軍艦軍用機鉄道リサ・ラーソンクレヨンしんちゃんミャクミャク世界動物誌佐藤邦雄の動物たち
仏像の次に戦車が来て、その次にイモムシが来る。この振れ幅こそがカプセルQミュージアムの個性だ。共通しているのは「テーマに対して本気」という一点のみ。
COLUMN / 「トイレの時間」という商品名について

ラインナップの中に「佐藤邦雄の動物たち『トイレの時間』」(2022年・全4種・400円)という商品がある。動物がトイレをしている姿のフィギュアだ。同じ作家の「つれ〇o〇」というシリーズもあり、商品名が伏せ字になっている。

仏像立体図録と同じシリーズ名(カプセルQミュージアム)で、動物のトイレシーンが展開されている。この節操のなさ、というか懐の深さが、海洋堂という会社の魅力だと思う。美術も生き物も日常も、全部ひっくるめて「立体にする価値がある」と考えているのだろう。

どこで買えるか

海洋堂公式サイトによれば「全国の家電量販店、ショッピングモール、専門店などに設置されているカプセル販売機にてお求めください」とのこと。ただし旧作は流通が終了しているものも多い。

また、海洋堂は全国に直営ショップ・ホビーロビーを展開しており、そこでは過去作の在庫が残っていることもある。博物館・美術館のミュージアムショップも狙い目で、テーマに合った海洋堂ガチャが設置されているケースがある。仏像シリーズを寺社の近くで見つけたときの説得力は格別だ。

絶版品はメルカリ・ヤフオクなどのフリマ・オークションでコンプリートセットが流通している。仏像立体図録の全12種セットなども取引されており、コレクターの間では今も需要がある。

✦ 400円のカプセルに、美術館が入っている

ショッピングモールのガチャコーナーで、東大寺の執金剛神や歌川国芳の猫や生物学的に正しいUMAに出会える国は、たぶん日本だけだ。しかもそれが400円で、原型師の名前まで明記されている。

海洋堂のカプセルQミュージアムは、ガチャという形式が持つ可能性を最も遠くまで押し広げた存在だと思う。次にガチャコーナーで「カプセルQミュージアム」のロゴを見かけたら、そこには美術館の展示品か、博物館の標本か、誰かの狂気じみた企画が入っている。ぜひ回してみてほしい。

📎 参考情報・出典